結論から。追加・変更する事業目的の文言は、①意味が明確で、②会社が利益を得る可能性があり(営利性)、③適法であることを満たすように、近い将来に行う可能性のある事業まで見据えて決めるのが基本です。 許認可(行政庁の許可・免許・登録)を取る予定の事業があるなら、文言を確定する前に、その許認可の最新の手引きを確認し、必要に応じて許認可窓口へ照会しておくことをおすすめします。
この記事は、株式会社の一般的なケースを対象に、事業目的の文言そのものの決め方を解説します。目的変更手続きの全体像は事業目的変更の基本ガイドをご覧ください。
まず、文言を決める前のチェックリストです。
- 一般の人が読んで意味がわかる語句か(明確性)
- 会社が利益を得る可能性のある事業か(営利性)
- 法令や公序良俗に反しない事業か(適法性)
- 近い将来に始める可能性のある事業も含めたか
- 末尾に「前各号に附帯する一切の事業」のような包括的な項目を入れるか検討したか
- 許認可を取る予定の事業は、行政庁の手引きで目的の文言の扱いを確認したか
事業目的の法的位置づけ|定款と登記簿の両方に載る
事業目的(以下「目的」)は、定款(会社の基本ルール)に必ず記載しなければならない事項です(会社法27条1号)1。同時に登記事項でもあり(会社法911条3項1号)2、登記事項証明書(登記簿)で誰でも確認できる情報になります。
また、法人は「法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」とされています(民法34条)3。目的は、会社が何の事業を行う存在かを対外的に示す土台になる記載です。
書き方の基本|登記実務上の考え方(明確性・営利性・適法性)
目的の文言がどこまで許容されるかについて、会社法に個別の基準を定めた条文はありません。登記実務上の考え方として、参考書籍(商業登記ハンドブック第5版)は次のように整理しています4。以下はいずれも登記実務上の取り扱いの説明であり、断定的な保証ではありません。
| 観点 | 登記実務上の考え方(参考書籍による) |
|---|---|
| 具体性 | 目的をどの程度具体的に定めるかは会社が自ら判断すべき事項で、登記官による審査の対象とはならないとされています(平成18年3月31日民商782号通達)4 |
| 明確性 | 「語句の意義が明瞭であり一般人において理解可能なこと」は引き続き必要な要件とされています。特殊な専門用語・外来語・新しい業種を示す語句は、国語辞典・現代用語辞典に説明があるか等が判断の参考にされます。法令に用いられている語句は、一般に明確性を有すると考えられています4 |
| 適法性 | 強行法規(当事者の合意でも変えられない規定)や公序良俗に反する事業を目的とすることはできません(民法90条)。また、弁護士・司法書士など法令上の資格者に限り行うことができる事業を、資格者以外の会社が目的とすることはできないとされています4 |
| 営利性 | 株式会社は事業活動で得た利益を株主に分配する存在であるため(会社法105条2項参照5)、会社が利益を取得する可能性の全くない事業は、目的として掲げる適格性を欠くと解されています4 |
なお、具体性が登記官の審査対象でなくなった一方で、参考書籍は、具体性のない目的が登記簿で公示されることに伴う不利益(会社の具体的な事業内容が明らかにならないこと等)にも触れています4。読み手に伝わる文言にしておくこと自体には意味があります。
目的の個数について: 会社法・商業登記法に、目的の個数を制限する規定は見当たりません(確認日時点の条文に基づく消極的確認)1。いくつ書くかは会社の判断です。
定番の文言・構成|法務局の記載例に見る形
法務局が公開している目的変更の登記申請書の記載例では、目的は次の形で書かれています6。
「目的」
1 ○○の製造販売
2 ○○の売買
3 前各号に附帯する一切の事業
つまり、具体的な事業を番号付きで列挙し、末尾に「前各号に附帯する一切の事業」という包括的な項目を置く構成です。参考書籍の定款記載例でも、末尾に「前各号に附帯関連する一切の事業」を置く形が示されています4。この一項があることで、列挙した事業に付随する取引を広くカバーする趣旨の、実務でよく使われる構成です。
「○○」の部分は、自社の事業に合わせて「(商品名・分野)の製造販売」「(商品名・分野)の売買」のように書きます。業種ごとの文言の具体例は、後述する許認可の手引きに記載例が示されている場合があるので(例: 宅建業の「宅地建物取引業」「不動産の売買、媒介」7)、該当する業種はそちらを参考にしてください。
なお、目的変更の登記では、変更した項目だけでなく変更後の目的の全部を申請書に記録します。法務局の記載例にも「目的は変更部分だけでなく、変更後の全ての目的を記録してください」と注記されています6。申請書への具体的な書き方は目的変更の登記申請書の書き方をご覧ください。
許認可との関係|文言を決める前に行政庁の手引きを確認
ここが最も見落とされやすい注意点です。許認可の申請時に、登記事項証明書や定款の目的欄の記載が確認される場合があります。 行政庁の公式資料で確認できた例を挙げます。
| 許認可 | 行政庁資料で確認できた取り扱い |
|---|---|
| 宅地建物取引業免許(東京都) | 履歴事項全部証明書の目的欄に宅建業を営む旨の記入がない場合は、免許が必要な理由を書面で提出し、速やかに目的欄に記載する手続きを法務局で行うよう案内されています。記載例は「宅地建物取引業」「不動産の売買、媒介」などで、「不動産業」のようにあいまいなものは認められないとされています7 |
| 建設業許可(東京都) | 新規申請・業種追加申請等の際、定款の目的から許可を受ける業種が読み取れない場合は、定款の目的を変更する旨の念書を求めることがあるとされています8 |
| 古物商許可(警視庁) | 法人の許可申請では、法人の定款と登記事項証明書が添付書類とされています(古物営業法施行規則)9 |
このように、目的の文言が原因で、許認可の申請段階で定款・登記の変更(またはその約束)を求められることがあります。 先に目的だけ登記してしまうと二度手間になりかねません。許認可を取る予定があるなら、申請前にその許認可の窓口・最新の手引きで目的の文言の扱いを確認しておくことをおすすめします。取り扱いは許認可の種類や自治体によって異なります。
逆に、「許認可を取る前に、その事業を目的に書いてよいのか」という疑問については、参考書籍によれば、登記実務上、許認可を受ける前であっても当該事業に係る目的の定めが直ちに無効であるとは解されていないとされています(業種により例外的な取り扱いの先例もあります)4。この点も、判断に迷う場合は司法書士、管轄の法務局または許認可窓口にご確認ください。
文言を決めたあとの手続き
目的の変更は定款変更なので、株主総会の決議が必要です(会社法466条)10。この決議は、通常より要件の重い特別決議にあたります(会社法309条2項11号)11。決議要件の数え方と議事録の作り方は目的変更の株主総会議事録の書き方で解説しています。変更が生じてからは2週間以内に変更登記の申請が必要です(会社法915条1項)12。
手続きの詳細は、それぞれ次の記事で解説しています。
- 手続き全体の流れ: 事業目的変更の基本ガイド
- 株主総会議事録の書き方: 目的変更の株主総会議事録の書き方
- 登記申請書(登記すべき事項)の書き方: 目的変更の登記申請書の書き方
- 期限と放置した場合のリスク: 目的変更の登記はいつまで?
よくある質問
Q. 事業目的はいくつまで書けますか? A. 会社法・商業登記法に個数を制限する規定は見当たりません(消極的確認)1。いくつ書くかは会社の判断です。ただし、各項目それぞれに明確性等が求められる点は変わりません4。
Q. 目的を変更せずに新しい事業を始めたらどうなりますか? A. 会社法に、目的に掲げていない事業を行ったこと自体に対する直接の罰則規定は見当たりません(消極的確認)1。ただし、法人は定款の目的の範囲内で権利義務を持つとされていること(民法34条)3、許認可の申請時に目的欄の記載を確認される場合があること78には注意が必要です。新しい事業が既存の目的に含まれるか、許認可のためにどの文言が必要かは個別に異なるため、司法書士・管轄の法務局・許認可窓口にご確認ください。なお、株主総会で定款変更を決議したのに登記をしないままにするのは登記期限(2週間)の問題になります12。詳細は目的変更の登記はいつまで?をご覧ください。
Q. 目的に英語(ローマ字)やカタカナ語は使えますか? A. 参考書籍によれば、登記実務上、「OA機器」「LPガス」「LAN工事」「NPO活動」のようにローマ字を含む表記が社会的に認知されている語句は、明確性の要請に反しない限り、目的の登記に用いても差し支えないとされています(平成14年10月7日民商2364号回答)4。カタカナ語などの外来語や新しい業種を示す語句は、国語辞典・現代用語辞典に説明があるか等が判断の参考にされるとされています4。判断に迷う語句は、申請前に管轄の法務局に相談してください。
Q. 「前各号に附帯する一切の事業」は必ず入れないといけませんか? A. 法務局の記載例で使われている定番の構成ですが6、これを義務付ける法令の規定は見当たりません(消極的確認)。入れるかどうかは会社の判断です。
目的変更の議事録・申請書は、フォーム入力でご自身でまとめて作成できます
文言が決まったら、あとは株主総会議事録・株主リスト・登記申請書を整合させて作る作業です。
wiz法人登記は、フォームに入力した内容をそのまま反映して、目的変更に必要な株主総会議事録・株主リスト・登記申請書をご自身で作成できるオンラインソフトウェアです(4,500円・税別)。個別の法的判断や申請の代理は行わず、作成した書類はご自身で確認のうえ法務局に申請いただきます。
参照法令・出典(確認日: 2026-07-16)
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。目的の文言の可否や許認可の要件は個別のケースにより異なるため、司法書士、管轄の法務局または各許認可の窓口にご相談ください。記載内容は確認日(2026-07-16)時点の法令・公表情報に基づきます。
Footnotes
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会社法27条1号(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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会社法911条3項1号(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
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民法34条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 ↩ ↩2
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参考書籍: 松井信憲『商業登記ハンドブック 第5版』(商事法務)「定款の記載例と留意点」目的の項(具体性・明確性・適法性・営利性)。本文の「登記実務上」の記述は同書に基づきます ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11
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会社法105条2項(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
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法務局 株式会社変更登記申請書(目的の変更)記載例 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252659.pdf ↩ ↩2 ↩3
-
東京都住宅政策本部「宅地建物取引業免許申請の手引」 https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/application/491menkyo00 (本文PDF: https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/juutakuseisaku/takken_all_01) ↩ ↩2 ↩3
-
東京都都市整備局「建設業許可申請・変更の手引(令和7年度)」 https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/kenchiku_kaihatsu/kenchiku_shidou/gyosya_shido/kensetsu/kensetsu_kyoka_tebiki3 (該当PDF: https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/toshiseibi/pdf_kenchiku_kensetsu_pdf_2025_r07_kensetu_tebiki_02) ↩ ↩2
-
警視庁「古物商許可申請」 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/tetsuzuki/kobutsu/tetsuzuki/kyoka.html ↩
-
会社法466条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
-
会社法309条2項11号(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
-
会社法915条1項(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩ ↩2
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。 個別のケースについては、管轄の法務局または司法書士にご確認ください。 記事内の法令・税額等は、記事末尾に記載の確認日時点の情報です。