結論から。株式会社の本店移転で作る議事録は、一般的なケースでは「定款変更が必要か」×「取締役会があるか」の組み合わせで整理できます。 まず下のマトリクスで必要な書類の目安を確認してください(機関設計や定款の定め、他の登記との同時申請によって書類が変わることがあります)。
| 取締役会あり | 取締役会なし | |
|---|---|---|
| 定款変更が必要(移転先が定款の範囲外) | 株主総会議事録+株主リスト+取締役会議事録 | 株主総会議事録+株主リスト+取締役決定書 |
| 定款変更が不要(移転先が定款の範囲内) | 取締役会議事録のみ | 取締役決定書のみ |
※このほかに登記申請書が必要です。書類の全体像は本店移転の必要書類一覧を、申請書自体の書き方は本店移転登記申請書の書き方をご覧ください。
判定ステップ|自分のケースを確かめる方法
ステップ1: 定款変更が必要か
「本店の所在地」は定款(会社の基本ルール)に必ず記載する事項です(会社法27条3号)1。定款の本店条項を開き、移転先がその記載の範囲内かを確認します。
- 定款が「当会社は、本店を東京都新宿区に置く」で、大阪市へ移転する → 範囲外なので定款変更が必要
- 定款が「当会社は、本店を東京都に置く」で、都内の他区へ移転する → 範囲内なので定款変更は不要
ステップ2: 取締役会があるか
取締役会設置会社であるかどうかは登記事項なので(会社法911条3項15号)2、自社の登記事項証明書の「取締役会設置会社に関する事項」欄で確認できます。
各ケースで必要な決議と根拠条文
① 定款変更には株主総会の特別決議
定款の変更は株主総会の決議で行います(会社法466条)3。この決議は特別決議です。原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款で3分の1まで引き下げ可)を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条2項11号)4。
② 具体的な移転先と移転日の決定
「○県○市○町○丁目○番○号へ、○月○日に移転する」という具体的な決定は、業務執行の決定として行います。取締役会設置会社では取締役会の決議(会社法362条2項1号)5、取締役会を置かない会社では取締役の過半数の一致(取締役が2人以上の場合。会社法348条2項)6で決めます。
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数の賛成で成立します(会社法369条1項)7。
定款変更が不要なケースでは①を省き、②の書類だけで足ります。法務局の記載例でも、株主総会議事録は「定款変更をする場合に必要です」と注記されています8。
株主総会議事録の書き方
株主総会の議事については議事録の作成が義務です(会社法318条1項)。作成後は本店に10年間備え置きます(同条2項)9。
記載すべき事項は会社法施行規則72条3項で決まっています10。本店移転の議事録に関係する主な事項を、法務局の記載例8と対応させると次の構成になります(このほか、株主総会で述べられた意見・発言があるときはその概要など、状況に応じて必要な事項があります10)。
| 主な法定記載事項(施行規則72条3項) | 記載例での書き方 |
|---|---|
| 開催の日時・場所 | 「令和○年○月○日午前○時、当会社の本店において開催した」 |
| 議事の経過の要領とその結果 | 議案「定款変更の件」として、変更後の本店条項(例: 第○条 当会社は、本店を○県○市に置く。)と「満場異議なく承認可決した」旨 |
| 出席した役員の氏名 | 出席取締役・出席監査役の氏名 |
| 議長の氏名 | 「取締役○○○○は議長席に着き」 |
| 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名 | 「議長兼議事録作成者」等と付記 |
記載例ではこのほか、株主の総数・発行済株式の総数・議決権を行使できる株主の議決権の数・出席株主の議決権の数を冒頭に書き、定足数を満たして会が適法に成立したことを示しています8。
取締役会議事録・取締役決定書の書き方
法務局の記載例では、取締役会議事録・取締役決定書とも中心は次の2点です8。
- 移転先の具体的な所在場所(○県○市○町○丁目○番○号)
- 移転の時期(令和○年○月○日)
ここで決めた移転の時期(実際に移転した日)が、そのまま登記申請書に書く「原因年月日」になります8。将来の日付のまま申請しないよう注意してください11。
取締役会を置かない会社の書面は「取締役の過半数の一致を証する書面」と呼ばれ、記載例では表題を「取締役決定書」として、決定事項と日付を書き、出席取締役が記名押印する形式です8。
署名・押印のルールは2つの議事録で違う
ここは誤解が多いポイントです。条文上の扱いを対比します。
| 書類 | 法令上の署名・押印義務 |
|---|---|
| 株主総会議事録 | 義務の規定なし。会社法施行規則72条が定めるのは記載事項のみで、署名・記名押印を求める規定はありません10。実務では末尾に出席役員等を記名する形が一般的で、法務局の記載例も記名形式です8 |
| 取締役会議事録 | 義務あり。書面で作成したときは、出席した取締役および監査役が署名または記名押印しなければなりません(会社法369条3項)7 |
なお、議事録そのものとは別に、登記申請書(代理人が申請する場合は委任状)には法務局へ届け出た会社実印を押す必要があります11。
みなし決議(書面決議)で済ませる場合
株主全員の同意が取れる会社では、実際に株主総会を開かない「みなし決議」も使えます。取締役または株主が議案を提案し、議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録で同意すると、その提案を可決する株主総会決議があったものとみなされます(会社法319条1項)12。
みなし決議でも議事録は必要です。この場合の記載事項は、①決議があったものとみなされた事項の内容、②提案者の氏名または名称、③決議があったものとみなされた日、④議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名です(会社法施行規則72条4項1号)10。
取締役会のみなし決議(会社法370条)も可能ですが、こちらは定款にその旨の定めがある場合に限られます13。定款を確認してから使ってください。
株主リストもセットで必要
定款変更の株主総会決議をしたときは、議事録とあわせて株主リスト(株主の氏名・住所・議決権数等を証する書面)の添付が必要です(商業登記規則61条3項)14。みなし決議の場合も対象になることが、同項に明記されています14。
記載するのは議決権割合の高い順に、①合計が3分の2に達するまで、②10名に達するまで、のいずれか少ない人数の株主です148。証明書は会社の代表者名義で作成します8。
よくある質問
Q. 株主総会議事録に会社の実印を押す必要はありますか? A. 株主総会議事録そのものへの署名・押印を義務付ける法令の規定はありません(会社法施行規則72条は記載事項のみを定めています)10。ただし登記申請書・委任状には届出印が必要です11。押印の要否が問題になる特殊なケース(代表取締役の選定を伴う場合など)は、法務局または司法書士にご確認ください。
Q. 定款の範囲内の移転でも、株主総会議事録は必要ですか? A. 本店移転登記を単独で申請する一般的なケースでは不要とされています。法務局の記載例でも、株主総会議事録は定款変更をする場合に必要とされています8。この場合は取締役会議事録(または取締役決定書)を添付します。定款の定めや他の登記と同時に申請する場合は異なることがあるため、不明な場合は法務局・司法書士にご確認ください。
Q. 議事録の日付と登記の「原因年月日」はどう関係しますか? A. 申請書の原因年月日には、決議した議事録に記載されている移転の時期(実際に移転した日)を記載します8。
Q. 議事録のひな形はどこで入手できますか? A. 法務局の「商業・法人登記の申請書様式」ページで、申請書様式と記入済みの記載例(株主総会議事録・株主リスト・取締役会議事録・取締役決定書の例を含むPDF)が無料公開されています118。
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会社の住所変更手続きの全体像はこちらのガイドをご覧ください。
参照法令・出典(確認日: 2026-07-15)
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。個別のケースについては、司法書士または管轄の法務局にご相談ください。記載内容は確認日(2026-07-15)時点の法令・公表情報に基づきます。
Footnotes
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会社法27条3号(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
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会社法911条3項15号(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
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会社法466条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
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会社法309条2項11号(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
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会社法362条2項1号(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
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会社法348条2項(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
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会社法369条1項・3項(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩ ↩2
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法務局 株式会社本店移転登記申請書(管轄登記所外に移転する場合)記載例(株主総会議事録・株主リスト・取締役会議事録・取締役決定書の記載例を含む) https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252661.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12
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会社法318条1項・2項(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
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会社法施行規則72条3項・4項(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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法務局 商業・法人登記の申請書様式 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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会社法319条1項(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
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会社法370条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
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商業登記規則61条3項(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/339M50000010023 ↩ ↩2 ↩3
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。 個別のケースについては、管轄の法務局または司法書士にご確認ください。 記事内の法令・税額等は、記事末尾に記載の確認日時点の情報です。