結論から。登記の申請を代理人に頼むときは、申請書にその権限を証する書面を添付しなければなりません(商業登記法18条)1。この書面が委任状です。逆に、会社の代表取締役が自分で申請するなら委任状は要りません。法務局の記載例の添付書類欄も、委任状に「代理人に申請を委任した場合のみ必要です」と注を付けています2。
書き方の要点は3つです。①代理人の住所と氏名を書き、②「登記の申請に関する一切の件」のように委任する権限を書き、③会社の本店・商号・代表取締役の氏名を書いて、代表取締役が登記所に提出している印鑑を押します2。委任状に印鑑証明書を付ける旨は、記載例には書かれていません2。
もう1つ、実務上の要点があります。添付した議事録などの原本を返してもらいたいなら、原本還付の請求と受領の権限を委任事項に入れておくことです。代理人が原本還付を請求するには、申請書にその権限を証する書面を添付しなければならないからです(商業登記規則49条4項)3。記載例の委任状にも「原本還付の請求及び受領の件」という行が用意されています2。
扱う範囲を先に断っておきます。以下は株式会社の一般的なケースで、書面で申請する場合を前提にしています。オンライン申請の場合の代理権限の証明方法は、本記事では扱いません。
| 迷いやすい点 | 条文・記載例が示していること |
|---|---|
| 委任状が要るのはいつか | 代理人によって登記を申請するとき(商業登記法18条)1。記載例の注「代理人に申請を委任した場合のみ必要」2 |
| 誰が誰に出すか | 委任者は会社(代表取締役が記名押印)、受任者は代理人2 |
| 押す印鑑 | 代表取締役が登記所に提出している印鑑(記載例の注)2 |
| 委任事項 | 「○○の登記の申請に関する一切の件」+必要なら「原本還付の請求及び受領の件」2 |
| 申請書の代理人欄 | 代理人の住所・氏名を書き、代理人の印鑑(認印)を押す。この場合、代表取締役の押印は不要(記載例の注)24 |
| 申請書の契印 | 申請書に押した印鑑(代表取締役の届出印または代理人の印鑑)と同一の印鑑で契印する(記載例の注)4 |
| 申請書に書く代理人の情報 | 代理人によって申請するときは、その氏名及び住所(商業登記法17条2項2号)1 |
ひな形|法務局の記載例の「委任状の例」
法務局の本店移転登記の記載例には、「委任状の例」として次の書面が載っています2。目的変更の記載例にも同様の構成の委任状の例があり、そちらの委任事項は「当会社の目的の変更の登記の申請をする一切の件」となっています4。
委 任 状
○県○市○町○丁目○番○号
○○○○
私は、上記の者を代理人に定め、次の権限を委任する。
1 令和○年○月○日に当会社の本店を移転したので、その登記の申請
に関する一切の件
1 原本還付の請求及び受領の件(注1)
令和○年○月○日
○県○市○町○丁目○番○号(注2)
○○商事株式会社
代表取締役 ○○○○ ㊞(注3)
(注)1 原本還付を請求する場合に記載します。
2 変更後の本店を記載します。
3 代表取締役が登記所に提出している印鑑を押します。
記載事項を1つずつ
1. 代理人の住所と氏名
冒頭に代理人の住所と氏名を書き、本文で「私は、上記の者を代理人に定め」と受けます2。申請書側にも代理人の氏名と住所を書く欄があり(商業登記法17条2項2号)1、両者は一致させます。
2. 委任事項|何の登記か、どこまでの権限か
本店移転の記載例では「令和○年○月○日に当会社の本店を移転したので、その登記の申請に関する一切の件」2、目的変更の記載例では「当会社の目的の変更の登記の申請をする一切の件」4と、どの登記の申請かが特定できる書き方になっています。
3. 原本還付の請求及び受領の件
記載例は2つ目の委任事項として「原本還付の請求及び受領の件」を置き、注で「原本還付を請求する場合に記載します」としています2。原本還付については後述します。
4. 日付
記載例では、委任事項の下に「令和○年○月○日」の日付欄があります2。
5. 委任者|会社の本店・商号・代表取締役
会社の本店(記載例の注は「変更後の本店を記載します」)2、商号、代表取締役の氏名を書きます。委任するのは会社であり、代表取締役はその代表者として記名する形です。
6. 押印|登記所に提出している印鑑
記載例の注は「代表取締役が登記所に提出している印鑑を押します」としています2。会社の実印として法務局に届け出ている印鑑です。目的変更の記載例の注も同じで、「代表取締役が登記所に提出している印鑑を押してください」です4。
委任状が要る根拠と、申請書側で変わる3か所
根拠|商業登記法18条
商業登記法18条は、代理人によって登記を申請するには、申請書にその権限を証する書面を添付しなければならないと定めています1。会社の代表者以外の人が代理人として申請するなら、その人にその権限があることを、この書面で示します。
申請書で変わる3か所
委任状を付けて代理人が申請する場合、申請書側は次の3か所が変わります。
① 代理人欄。申請書には、申請人である会社の本店・商号と代表取締役の住所・氏名の下に、代理人の住所・氏名を書く欄があります。記載例の注は、この欄について「代理人が申請する場合にのみ記載し、代理人の印鑑(認印)を押します」としています2。申請書に書くべき事項として、代理人によって申請するときはその氏名及び住所が法定されています(商業登記法17条2項2号)1。
② 代表取締役の押印。記載例の注は、代理人が申請する場合について「この場合、代表取締役の押印は、必要ありません」としています24。代表取締役の届出印は委任状に押しているため、申請書には代理人の印だけを押す形になります。申請書に記名押印するのは「申請人又はその代表者…若しくは代理人」と定められており(商業登記法17条2項)1、代理人が記名押印すれば足りる構造です。
③ 契印。申請書が2枚以上になるときは、各用紙のつづり目に契印をします(商業登記規則35条3項)3。目的変更の記載例の注によれば、契印に使う印鑑は申請書に押した印鑑と同一でなければならず、その印鑑は「代表取締役が法務局に提出した印鑑又は代理人の印鑑」とされています4。代理人が申請するなら、契印も代理人の印鑑です。
申請書そのものの書き方は、本店移転登記申請書の書き方・目的変更登記申請書の書き方で扱っています。
原本還付の権限を委任事項に入れる理由
添付書類の原本は、申請人が還付を請求できます(商業登記規則49条1項)。そのときは、原本と相違がない旨を記載した謄本(コピー)を申請書に添えます(同条2項)3。取締役会議事録のように、会社が本店に備え置かなければならない書類(会社法371条1項)5を添付したときは、この請求で原本を手元に戻せます。
ここで、代理人が申請する場合の条文が同条4項です。代理人によって還付の請求をするには、申請書にその権限を証する書面を添付しなければならないとされています3。登記申請の権限だけを委任した委任状では、この「権限を証する書面」になりません。記載例の委任状が「原本還付の請求及び受領の件」という独立した行を持っているのは、このためです2。原本を返してもらう予定があるなら、この行を残しておきます。
誰を代理人にできるか
商業登記法18条は代理人の資格を限定していません1。一方で、司法書士法3条1項1号は「登記又は供託に関する手続について代理すること」を、他人の依頼を受けて業として行う司法書士の事務として定め6、同法73条1項は、司法書士会に入会している司法書士または司法書士法人でない者(協会を除く)は、3条1項1号から5号までに規定する業務を行ってはならないと定めています(他の法律に別段の定めがある場合を除く)6。
つまり、他人の依頼を受けて登記手続の代理を業として行うことは、司法書士法の規制対象です。代理人の適否について個別の判断が必要な場合は、司法書士または管轄の法務局にご確認ください。司法書士に依頼するかどうかの考え方は司法書士に依頼する判断基準で整理しています。
FAQ|よくある質問
Q. 委任状に印鑑証明書は必要ですか。
A. 記載例の委任状の注が求めているのは、代表取締役が登記所に提出している印鑑を押すことで2、印鑑証明書の添付には触れていません。個別の事案での要否は管轄の法務局にご確認ください。
Q. 委任状の日付はいつにすればよいですか。
A. 記載例は本文の下に「令和○年○月○日」の日付欄を置いています2。日付の取扱いで迷う場合は、管轄の法務局にご確認ください。
Q. 管轄外へ本店移転するときは、委任状は何通ですか。
A. 管轄外への本店移転の記載例は、変更前の本店所在地を管轄する登記所宛ての委任状の例と、変更後の本店所在地を管轄する登記所宛ての委任状の例を、それぞれ別に載せています2。申請書が2通になるのに合わせて委任状も2通です。管轄外移転の申請の流れは管轄外への本店移転登記で扱っています。
Q. 代理人が申請するとき、申請書に代表取締役の印は要りますか。
A. 記載例の注は、代理人が申請する場合について「この場合、代表取締役の押印は、必要ありません」としています24。代表取締役の届出印は委任状に押します。
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参照法令・出典(確認日: 2026-08-29)
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。株式会社の一般的なケースで、書面により登記を申請する場合を対象としています。オンライン申請の場合や、会社の類型・登記の種類によって取扱いが異なる場合があります。個別のケースについては、司法書士または管轄の法務局にご相談ください。記載内容は確認日(2026-08-29)時点の法令・公表情報に基づきます。
Footnotes
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商業登記法17条2項(申請書の記載事項・2号代理人によって申請するときはその氏名及び住所・記名押印する者)・18条(申請書の添付書面・代理人によって登記を申請するにはその権限を証する書面を添付)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000125#Mp-At_18 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
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法務局 記載例「株式会社本店移転登記申請書(管轄登記所外への移転)」のうち「委任状の例(変更前の本店所在地を管轄する登記所宛て)」「委任状の例(変更後の本店所在地を管轄する登記所宛て)」、添付書類欄の注、申請人・代理人欄の注 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252661.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19 ↩20 ↩21 ↩22 ↩23 ↩24
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商業登記規則35条3項(申請書が二枚以上であるときの契印)・49条(添付書類の還付・1項請求・2項謄本の添付・4項代理人による請求にはその権限を証する書面を添付)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/339M50000010023#Mp-At_49 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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法務局 記載例「株式会社目的変更登記申請書」のうち「委任状の例」、申請人・代理人欄の注、契印の注 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252659.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9
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会社法371条1項(取締役会議事録等の備置き・十年間・本店)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_371 ↩
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司法書士法3条1項1号(登記又は供託に関する手続について代理すること)・73条1項(非司法書士等の取締り・協会を除く・他の法律に別段の定めがある場合)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197#Mp-At_73 ↩ ↩2
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。 個別のケースについては、管轄の法務局または司法書士にご確認ください。 記事内の法令・税額等は、記事末尾に記載の確認日時点の情報です。