結論から。重任とは、役員の任期が満了して退任すると同時に、同じ人が再び選任されて就任することです。 人は入れ替わっていませんが、登記されている内容は変わるため、変更が生じた日から2週間以内に登記を申請します(会社法915条1項)1。法務局も、株式会社の役員変更登記は登記の事由が発生した時から2週間以内にしなければならないと案内しています2。
そして、あまり知られていないことがひとつあります。重任では、就任承諾書に付ける印鑑証明書と本人確認証明書が不要になります。 商業登記規則がこの2つを求める条項に、どちらも「再任を除く。」という括弧書きが入っているためです(商業登記規則61条4項・7項)3。実際、法務局の記載例1-7(役員の全員が重任)の添付書類欄には、この2つが挙げられていません4。
ただし、「重任だから印鑑証明書はすべて不要」ではありません。 代表取締役を選んだ書面(取締役会議事録など)に押した印鑑の証明書を定める商業登記規則61条6項には、「再任を除く」が入っていません3。こちらは別の条件で判断します(後述)。
本記事は、重任の意味・任期の数え方・添付書類がどこまで軽くなるのかに絞って解説します(株式会社の一般的なケースが対象で、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社は除きます)。役員変更登記の全体像・申請書の選び方・費用・期限の詳細は役員変更登記のやり方にまとめています。
| 知りたいこと | 答え |
|---|---|
| 重任とは | 任期満了による退任と、同じ人の再度の就任が同じ日に起きること |
| なぜ登記が要る? | 任期満了で地位がいったん終わるため、登記されている内容が変わるから |
| 取締役の任期 | 原則、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(会社法332条1項)5 |
| 監査役の任期 | 原則、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(会社法336条1項)6 |
| 就任承諾書の印鑑証明書・本人確認証明書 | 条文に「再任を除く。」があるため重任では不要(商業登記規則61条4項・7項)34 |
| 代表取締役の選定書面の印鑑証明書 | 「再任を除く」は無い。変更前の代表取締役が登記所に提出している印鑑が押されていれば不要(同条6項ただし書)3 |
| 期限・費用・様式の選び方 | 役員変更登記のやり方で扱っています |
重任とは|「退任」と「就任」が同じ日に起きている
登記簿の役員欄に「令和○年○月○日重任」と記録されているのを見て、何が起きたのか分からないという声はよく聞きます。
重任は、次の2つが同じ日に重なった状態を指します。
- 任期が満了して、その役員が退任した
- 同じ株主総会で改めて選任され、同じ人が就任した
法務局の記載例1-7(役員の全員が重任する場合)でも、登記すべき事項は「役員に関する事項」「資格」取締役「氏名」○○○○「原因年月日」令和○年○月○日重任、という形で記録することとされています4。退任と就任がそれぞれ別行で並ぶのではなく、「重任」という1つの原因にまとまるのが特徴です。
経営の実感としては「何も変わっていない」のですが、会社法の建て付けではいったん任期が切れて、選び直しているわけです。
なぜ人が変わらないのに登記が必要なのか
役員は株主総会の決議によって選任されます(会社法329条1項)7。そして取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています(会社法332条1項本文)5。ただし、定款または株主総会の決議によって任期を短縮することは妨げられません(同項ただし書)5。
任期が満了すれば、その役員は原則として退任します。続けてもらうには改めて株主総会で選任することになります。
なお、役員が欠けた場合、またはこの法律もしくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了または辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有するとされています(会社法346条1項)8。後任を決めないまま任期だけが切れても、その人が直ちに何の関係もなくなるわけではない、ということです。
ここで登記の側を見ると、記録されているのは氏名だけではありません。法務局の記載例1-7のとおり、役員に関する事項には「原因年月日」——いつ、どの原因で今の地位に就いたのか——が併せて記録されます4。人の顔ぶれは同じでも、記録すべき内容は動いているため、変更の登記が必要になります(会社法915条1項)1。
いつ来るのか|任期の数え方
| 役職 | 原則の任期 | 定款で伸ばせる範囲 |
|---|---|---|
| 取締役 | 選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(会社法332条1項)5 | 公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く)は、定款によって選任後10年以内まで伸長できます(同条2項)5 |
| 監査役 | 選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(会社法336条1項)6 | 公開会社でない株式会社は、定款によって選任後10年以内まで伸長できます(同条2項)6 |
条文が「選任後2年」ではなく「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」という書き方をしているところが、日付の見当をつけにくくしています。満了日は選任日のちょうど2年後ではなく、定時株主総会の日に来ます。
原則どおりであれば、取締役は2年ごと、監査役は4年ごとに重任の時期が来ます。両方を置いている会社では、重任のタイミングが別々に来ることになります。自社の定款で任期を伸長している場合は、その期間に従います。
任期を長くしたときに視野に入れておくこと
定款で任期を10年に伸ばせば、重任登記の回数は減ります。一方で法務局は、最後の登記から12年を経過している株式会社はみなし解散の登記の対象になると案内しています2。任期10年で運用している会社では、重任登記の間隔とこの12年との差が小さくなります。
どちらを選ぶかは会社の事情によります。みなし解散の仕組みそのものは変更登記を忘れると過料はいくら?で扱っています。
重任の添付書類はどこまで軽くなるのか
ここが重任のいちばん実務的なポイントです。商業登記規則61条は印鑑証明書・本人確認証明書を複数の項で求めており、「再任を除く」が入っている項と入っていない項があります。 混同されやすいところなので、項ごとに分けて見ます。
「再任を除く」が入っている項(重任では不要になる)
就任承諾書に押した印鑑の印鑑証明書(61条4項後段) 同項は、取締役の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書に添付すべき就任承諾書に押印した印鑑について、市町村長の作成した証明書を添付しなければならないとしています3。取締役会設置会社では、この「取締役」は「代表取締役又は代表執行役」と読み替えられます(同条5項)3。
本人確認証明書(61条7項) 同項は、取締役・監査役・執行役の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書に、就任承諾書に記載した氏名・住所と同一の氏名・住所が記載された公務員作成の証明書を添付しなければならないとしています。ただし、同条4項または6項により印鑑証明書を添付する場合は、この限りでないとされています3。法務局の様式1-28の注記も、印鑑証明書が添付書面とならない者については、再任の場合を除き本人確認証明書が必要となるとしています9。
この2つは括弧書きどおり、重任では添付書類に現れません。法務局の記載例1-7(役員の全員が重任)の添付書類欄にも挙げられていません4。
「再任を除く」が入っていない項(重任でも条件を満たす必要がある)
代表取締役を選んだ書面に押した印鑑の印鑑証明書(61条6項)
同項は、代表取締役の就任による変更の登記の申請書には、選定の方法に応じて次の印鑑について市町村長の作成した証明書を添付しなければならないとしています3。
| 代表取締役の選定方法 | 印鑑証明書が必要になる印鑑 |
|---|---|
| 株主総会・種類株主総会の決議 | 議長および出席した取締役が議事録に押印した印鑑 |
| 取締役の互選 | 取締役が互選を証する書面に押印した印鑑 |
| 取締役会の決議 | 出席した取締役および監査役が取締役会議事録に押印した印鑑 |
この6項には「再任を除く」が入っていません。 重任も条文上は「就任」なので、6項はそのまま適用されます。では重任のときに印鑑証明書の束を求められないのはなぜかというと、免除の根拠が「再任だから」ではなく同項のただし書にあるためです。ただし書は、その印鑑と変更前の代表取締役(取締役を兼ねる者に限る)が登記所に提出している印鑑とが同一であるときは添付を要しないとしています3。
法務局の記載例1-7も、取締役会議事録について同じ趣旨の注を付けています。代表取締役の印鑑については代表取締役が登記所に提出している印鑑を押す必要があり、登記所に提出している印鑑が押されていない場合には、出席した取締役および監査役全員の実印を押し、すべての印鑑について市町村長が作成した印鑑証明書を添付することが必要になる、というものです4。
つまり実務上は、**「重任だから何も要らない」ではなく「代表取締役が届出印を押しているから要らない」**というのが正確な理解になります。届出印を押し忘れると、重任でも印鑑証明書が必要になります。
記載例に現れる添付書類の比較
法務局の記載例の「添付書類」欄に挙がっているものを並べると、差がはっきりします(欄の記載を抜き出したもので、記載例中の注記は含みません)。
| 添付書類 | 1-7 役員の全員が重任4 | 1-10 辞任等により新たな取締役が就任10 |
|---|---|---|
| 株主総会議事録 | あり(株主総会議事録) | あり(臨時株主総会議事録) |
| 株主リスト | あり | あり |
| 取締役会議事録 | あり | — |
| 就任承諾書 | あり | あり |
| 監査役の監査の範囲に関する定款等 | あり | — |
| 辞任届(または死亡届等) | — | あり |
| 印鑑証明書 | 記載なし | あり |
| 本人確認証明書 | 記載なし | あり |
| 委任状 | あり(代理人に委任した場合のみ) | あり(代理人に委任した場合のみ) |
1-7の「印鑑証明書 記載なし」は、上に書いたとおり取締役会議事録に変更前の代表取締役の登記所届出印が押されている前提での記載です。この前提が崩れると必要になります。
なお、全員が重任するのではなく、退任する人と新しく就任する人が混ざる場合は、新任の人について印鑑証明書や本人確認証明書が必要になります。書類の一覧と機関設計ごとの違いは役員変更登記のやり方で扱っています。
重任でも申請書は3種類ある
法務局は「役員の全員が重任」という同じ場面について、3つの記載例を用意しています11。
| 様式 | 対象 |
|---|---|
| 1-7 | 取締役会設置会社 |
| 1-8 | 取締役会非設置で、取締役全員が各自代表、または株主総会で代表取締役を選定 |
| 1-9 | 取締役会非設置で、互選により代表取締役を選定 |
分かれ目は、その会社が代表取締役をどうやって決めているかです(会社法349条)12。決め方によって添付する議事録が変わるため、同じ「全員重任」でも申請書が別々に用意されています。上の3様式は代表的な組み合わせについての記載例であり、定款の定めによってはこれと異なる扱いになることがあります。自社の定款を確認し、判断に迷う場合は管轄の法務局または司法書士にご確認ください。
なお、取締役と監査役が同じ株主総会でまとめて重任する場合は、1通の申請書にまとめられます。法務局の記載例1-7も、登記の事由を「取締役、代表取締役及び監査役の変更」として1件で申請する例になっています4。登録免許税も1件分です(金額と納付方法は役員変更登記のやり方をご覧ください)。
何期分もたまっていた場合
重任は「何も変わっていない」と感じられるぶん見落とされやすく、気づいたときには何期分もたまっていることがあります。
期限を過ぎても登記の義務がなくなるわけではありません。法務局は、登記の事由が発生する前に登記の申請をすることはできず、登記の事由が到来した後に申請することになると案内しています2。過去に選任の決議が実際に行われていれば、その事実に基づく登記を期限後に申請することになります。まずは現在の登記事項証明書で最後の登記がいつなのかを確認し、その後の定時株主総会の議事録を探すところから始めることになります。総会を開いていない、議事録が見つからないといった場合は扱いが異なるため、司法書士または管轄の法務局にご確認ください。
放置した場合の過料については変更登記を忘れると過料はいくら?、2週間の数え方は変更登記の期限は2週間で扱っています。
よくある質問
Q. 登記簿に「重任」とありますが、何かしたということですか。 A. 任期が満了した役員が、同じ株主総会で改めて選任されて就任したという記録です。法務局の記載例でも「原因年月日」欄に「令和○年○月○日重任」と記録することとされています4。
Q. 取締役の任期を10年にすれば手間は減りますか。 A. 公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く)は、定款によって取締役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長できます(会社法332条2項)5。一般に考慮されている要素としては、登記の回数が減ること、その一方で法務局が案内しているみなし解散(最後の登記から12年の経過)2までの余白が縮むことが挙げられます。任期の設定は定款の変更をともない、会社の事情にも関わるため、司法書士にご相談ください。
Q. 取締役と監査役で重任の時期がずれるのはなぜですか。 A. 原則の任期が取締役は2年(会社法332条1項)5、監査役は4年(会社法336条1項)6と異なるためです。定款で任期を伸長している場合はその期間によります。
Q. 重任のときも株主リストは要りますか。 A. 重任は株主総会の決議によるため、株主リストは添付書類になります(商業登記規則61条3項)3。法務局の記載例1-7でも添付書類として挙げられています4。
Q. 定時株主総会をまだ開いていないのですが、先に登記できますか。 A. 法務局は、登記の事由が発生する前に登記の申請をすることはできず、登記の事由が到来した後に申請することになると案内しています2。重任の登記は、任期が満了して選任がされた後の申請になります。
書類作成サービスについて
wiz法人登記は現在、株式会社の本店移転・目的変更の書類作成(4,500円・税別)に対応しており、重任を含む役員変更登記の書類作成には対応していません。重任登記については、この記事で紹介した法務局の申請書様式と記載例411をご利用いただき、ご自身で作成いただくことになります。本店移転や目的変更もあわせて必要な方は、その分の書類作成(株主総会議事録・株主リスト・登記申請書)にご利用いただけます。個別の法的判断や申請の代理は行わず、作成した書類はご自身で確認のうえ法務局に申請いただきます。登録免許税などの実費は別途必要です。
参照法令・出典(確認日: 2026-08-05)
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社については、取締役の任期や選任の手続きが本記事の説明と異なります。個別のケースについては、司法書士または管轄の法務局にご相談ください。記載内容は確認日(2026-08-05)時点の法令・公表情報に基づきます。
Footnotes
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会社法915条1項(変更の登記・2週間以内)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_915 ↩ ↩2
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法務局「商業・法人登記の申請書様式」内「商業・法人登記申請の注意事項」(みなし解散・登記原因の日付) https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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商業登記規則61条3項(株主リスト)・4項・5項(就任承諾書に押した印鑑の印鑑証明書。取締役の就任(再任を除く。))・6項(代表取締役を選んだ書面に押した印鑑の印鑑証明書。「再任を除く」の定めは無く、ただし書で変更前の代表取締役の登記所届出印と同一の場合は不要)・7項(本人確認証明書。再任を除く。)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/339M50000010023#Mp-At_61 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10
-
法務局 記載例1-7「株式会社役員変更登記申請書(取締役会設置会社・役員の全員が重任)」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001298394.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11
-
会社法332条1項・2項(取締役の任期)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_332 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
-
会社法336条1項・2項(監査役の任期)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_336 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
会社法329条1項(役員及び会計監査人の選任)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_329 ↩
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会社法346条1項(役員等に欠員を生じた場合の措置・権利義務を有する役員)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_346 ↩
-
法務局「株式会社代表取締役の就任による変更登記添付書面一覧」(様式1-28) https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001188275.pdf ↩
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法務局 記載例1-10「株式会社役員変更登記申請書(辞任等により新たな役員(取締役)が就任した場合)」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252657.pdf ↩
-
法務局「商業・法人登記の申請書様式」(第1 株式会社/2 役員変更・様式1-7・1-8・1-9。更新日2024年10月10日) https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html ↩ ↩2
-
会社法349条(株式会社の代表)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_349 ↩
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。 個別のケースについては、管轄の法務局または司法書士にご確認ください。 記事内の法令・税額等は、記事末尾に記載の確認日時点の情報です。