結論から。会社の本店(会社の住所)と代表取締役個人の住所は、別々の登記事項です1。 代表取締役が引っ越したときに必要なのは、本店移転登記ではなく「代表取締役の住所変更登記」で、住所移転の日から2週間以内に申請します(会社法915条1項)2。登録免許税は資本金の額が1億円以下の会社で1万円、1億円を超える会社で3万円です345。
本記事は株式会社の一般的なケースを対象に、「会社の住所」と「代表取締役の住所」の違い、どちらの登記が必要かの判定、手続き・費用、そして住所を登記簿に表示しない「住所非表示措置」(令和6年10月1日施行)6までを、法令と法務局・法務省の案内に基づいて解説します。まずは早見表からどうぞ。
| 知りたいこと | 答え |
|---|---|
| どちらの登記が必要? | 会社の住所が変わった→本店移転登記。代表取締役個人の住所が変わった→代表取締役の住所変更登記。両方変わった(自宅兼本店の引っ越しなど)→両方1 |
| 期限 | 住所移転の日から2週間以内2 |
| 登録免許税 | 資本金1億円以下は1万円、1億円超は3万円345 |
| 添付書類 | 原則ありません。法務局の記載例で挙げられているのは代理人に委任した場合の委任状のみで、住民票の添付は不要とされています5 |
| 住所を登記簿に出したくない | 「代表取締役等住所非表示措置」の申出が可能(要件・留意点あり。令和6年10月1日施行)67 |
会社の住所と代表取締役の住所は別の登記事項
株式会社の登記事項は会社法911条3項に列挙されています。このうち「本店及び支店の所在場所」は3号1、「代表取締役の氏名及び住所」は14号です(指名委員会等設置会社の場合を除く)1。つまり、会社の住所(本店)と代表取締役個人の住所は、同じ登記簿の中の別々の項目として登記されています。
登記事項証明書では、本店は「本店」欄に、代表取締役の住所は「役員に関する事項」の欄に記載されます。どちらも登記されている以上、変わったらそれぞれ変更の登記が必要です(会社法915条1項)2。
なお、代表権のない取締役については、登記されるのは氏名のみです(会社法911条3項13号)1。住所は登記事項ではないため、代表取締役でない取締役が引っ越しただけであれば、住所変更の登記は発生しません。
どちらの登記が必要か|3パターンで判定
引っ越しのパターンごとに、必要な登記を整理します。
| パターン | 必要な登記 |
|---|---|
| 会社(本店)だけ移転した | 本店移転登記12 |
| 代表取締役だけ引っ越した(本店は変わらない) | 代表取締役の住所変更登記12 |
| 自宅兼本店で、引っ越しにより両方変わった | 本店移転登記+代表取締役の住所変更登記の両方12 |
本店移転登記の手続きは本店移転登記の総合ガイドで解説しています。また、会社の住所変更に伴う税務署・年金事務所などへの届出を含む全体像は会社の住所変更に必要な手続き一覧をご覧ください。
本店移転登記との違い
| 項目 | 代表取締役の住所変更登記 | 本店移転登記 |
|---|---|---|
| 変わる登記事項 | 代表取締役の住所(会社法911条3項14号)1 | 本店の所在場所(同3号)1 |
| 期限 | 変更から2週間以内2 | 移転から2週間以内2 |
| 登録免許税 | 1件につき3万円(資本金1億円以下は1万円)34 | 1箇所につき3万円84。管轄外への移転は申請書2件で1件につき3万円(合計6万円)9 |
| 添付書類 | 記載例上は委任状(代理申請の場合)のみ5 | 株主総会議事録・株主リスト等が必要になる場合あり |
登録免許税の税額区分も別です。本店移転は登録免許税法別表第一24号(一)ヲ(本店の移転の登記)、代表取締役の住所変更は同カ(取締役・代表取締役等に関する事項の変更の登記)に区分され、それぞれの区分で税額が定められています38。
代表取締役の住所変更登記の手続き
法務局が公開している「株式会社役員変更登記申請書(住所移転)」の記載例(様式1-5)5に基づくと、手続きは次のとおりです。
- 申請書: 「株式会社変更登記申請書」を使用し、登記の事由は「代表取締役の住所変更」と記載します5。
- 登記すべき事項: 「役員に関する事項」として、資格(代表取締役)・変更後の住所・氏名・原因年月日(令和○年○月○日住所移転)を記載します5。記載例では、住所移転の年月日と住民票記載の住所をそのまま正確に記入するよう注記されています5。
- 添付書類: 記載例で挙げられているのは、代理人に申請を委任した場合の委任状のみです。申請書に住民票を添付する必要はないとされています5。
- 登録免許税: 資本金の額が1億円を超える場合は3万円、1億円以下の場合は1万円で、収入印紙または領収証書で納付します345。
株主総会や取締役会の決議書類は、この登記の記載例の添付書類には挙げられていません5。書類がシンプルな分、自分で申請しやすい登記といえます。様式・記載例は法務局の申請書様式ページからダウンロードできます10。
期限は2週間以内|放置すると過料の対象
登記事項に変更が生じたときは、変更から2週間以内に変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)2。代表取締役の住所移転もこれに含まれます。期限の数え方(起算日の考え方)は変更登記の期限の数え方で解説しています。
期限を過ぎても申請自体はできますが、登記を怠ったときは100万円以下の過料(かりょう)の対象になり得ます(会社法976条1号)11。過料の実際の運用は変更登記を放置した場合の過料をご覧ください。
住所を登記簿に出したくない場合|代表取締役等住所非表示措置
代表取締役の住所は登記事項のため、原則として登記事項証明書等で誰でも確認できます。これに対し、令和6年10月1日施行の「代表取締役等住所非表示措置」(商業登記規則等の一部を改正する省令・令和6年法務省令第28号による創設。商業登記規則31条の3)を利用すると、一定の要件の下、代表取締役等の住所の一部を登記事項証明書等に表示しないこととすることができます67。
概要と効果
措置が講じられると、登記事項証明書や登記事項要約書等において、住所のうち行政区画以外の部分は記載されず7、最小行政区画(市区町村。東京都は特別区、指定都市は区)までの表示になります6。
申出できる場面
申出は、設立の登記、代表取締役等の就任の登記、住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記の申請と同時にする場合に限りすることができます6。単独での申出はできません。申出には、上場会社か否かの区分に応じた書面の添付が必要です(上場会社以外の場合、本店所在場所への配達証明郵便等による実在確認書面、住民票の写し等の住所証明書、実質的支配者の本人特定事項を証する書面など)67。詳細な要件と記載例は法務省の案内ページに掲載されています6。
留意点
法務省は、申出の前に慎重かつ十分な検討を求めています。案内で示されている主な留意点は次のとおりです6。
- 登記事項証明書等で会社代表者の住所を証明できなくなるため、金融機関からの融資や不動産取引等で不都合が生じたり、必要書類が増えたりするなど、一定の影響が想定されること6
- 措置が講じられても登記義務は免除されず、住所に変更が生じたら変更登記の申請が必要なこと6
- 措置が講じられている代表取締役等の住所に変更がある登記を申請する場合、措置を続けるには改めて申出が必要なこと(申出がないと新しい住所は表示されてしまうこと)6
自宅兼本店の引っ越し|両方の登記を同時に申請
自宅を本店として登記している会社で引っ越しをすると、本店の所在場所(3号)と代表取締役の住所(14号)の両方が変わります1。この場合、本店移転登記と代表取締役の住所変更登記の両方が必要です2。
登録免許税は登記の区分ごとに定められているため、本店移転分(1箇所につき3万円。管轄外への移転は申請書2件で1件につき3万円)894と、代表取締役の住所変更分(3万円・資本金1億円以下は1万円)34をそれぞれ納付します。複数の変更を1回の申請にまとめる考え方は変更登記の同時申請で解説しています。
なお、住所非表示措置を希望する場合、代表取締役の住所移転による変更登記の申請と同時に申出ができます6。
FAQ|よくある質問
Q. 住民票は必要ですか?
A. 法務局の記載例では、申請書に住民票を添付する必要はないとされています5。ただし、登記すべき事項には住所移転の年月日と住民票記載の住所をそのまま正確に記入するよう案内されているため5、手元の住民票と照合しながら書くと、住所や移転年月日の記載誤りを減らせます。
Q. 結婚などで代表取締役の氏名が変わった場合は?
A. 氏名も「代表取締役の氏名及び住所」として登記事項です1。氏名の変更登記は本記事のスコープ外ですが、法務局の申請書様式ページに氏名変更の記載例(様式1-6)が公開されています10。
Q. 代表ではない取締役が引っ越した場合も登記が必要ですか?
A. 代表権のない取締役は氏名のみが登記され、住所は登記事項ではありません(会社法911条3項13号)1。そのため、一般的なケースでは住所変更の登記は発生しません。
Q. うっかり2週間を過ぎてしまいました。
A. 期限を過ぎても申請自体は可能です。ただし、登記を怠った場合には裁判所から100万円以下の過料を科され得ます(会社法976条1号)11。気づいた時点で早めに申請してください。詳しくは変更登記を放置した場合の過料をご覧ください。
書類作成サービスについて
wiz法人登記は現在、株式会社の本店移転・目的変更の書類作成(4,500円・税別)に対応しており、代表取締役の住所変更登記の書類作成には対応していません。代表取締役の住所変更は添付書類が原則不要で5、この記事で紹介した法務局の様式・記載例510を使えばご自身で作成できます。自宅兼本店の移転で本店移転登記もあわせて必要な方は、本店移転分の書類作成(株主総会議事録・株主リスト・登記申請書)にご利用いただけます。個別の法的判断や申請の代理は行わず、作成した書類はご自身で確認のうえ法務局に申請いただきます。登録免許税などの実費は別途必要です。
参照法令・出典(確認日: 2026-07-19)
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。個別のケースについては、司法書士または管轄の法務局にご相談ください。記載内容は確認日(2026-07-19)時点の法令・公表情報に基づきます。
Footnotes
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会社法911条3項3号(本店及び支店の所在場所)・13号(取締役の氏名)・14号(代表取締役の氏名及び住所)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_911 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13
-
会社法915条1項(変更の登記・2週間以内)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_915 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10
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登録免許税法 別表第一24号(一)カ(取締役、代表取締役等に関する事項の変更の登記・1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社は1万円)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
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国税庁タックスアンサーNo.7191「登録免許税の税額表」(取締役または代表取締役もしくは監査役等に関する事項の変更の登記) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
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法務局「株式会社役員変更登記申請書(住所移転)」記載例(様式1-5) https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252646.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15
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法務省「代表取締役等住所非表示措置について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00210.html ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12
-
商業登記規則31条の3(代表取締役等住所非表示措置)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/339M50000010023 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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登録免許税法 別表第一24号(一)ヲ(本店の移転の登記・1箇所につき3万円)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035 ↩ ↩2 ↩3
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法務局「株式会社本店移転登記申請書(管轄登記所外移転)」記載例(申請書2件・1件につき3万円) https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252661.pdf ↩ ↩2
-
法務局「商業・法人登記の申請書様式」(様式1-5・1-6ほか) https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html ↩ ↩2 ↩3
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会社法976条1号(登記を怠ったときは100万円以下の過料)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_976 ↩ ↩2
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。 個別のケースについては、管轄の法務局または司法書士にご確認ください。 記事内の法令・税額等は、記事末尾に記載の確認日時点の情報です。