結論から。本店移転で定款変更が必要かどうかの分かれ目は、定款の「本店の所在地」条項の書き方です。 法務局の記載例には、定款に本店の所在地として最小行政区画(市区町村)までを規定している場合であって、その最小行政区画内において本店を移転するときには、株主総会の決議は必要なく、取締役会の決議(取締役会設置会社でない会社にあっては、取締役の過半数の一致)により移転することになる、と注記されています1。逆に、この条件を満たさない移転――定款に書かれた市区町村の外へ移す場合や、定款に番地までの具体的な所在場所が書かれている場合――では、定款変更(株主総会の特別決議)が必要になります231。
本記事は株式会社の一般的なケース(取締役会設置会社・取締役会を置かない会社の両方)を対象に、定款のどこを見て判定するか、要る場合と要らない場合で決議がどう違うかを、条文と法務局の記載例に基づいて解説します。まずは判定表からどうぞ。
| 定款の「本店の所在地」の記載 | 移転先 | 定款変更 | 必要な決議 |
|---|---|---|---|
| 最小行政区画まで(例:「当会社は、本店を東京都千代田区に置く。」) | 同じ市区町村の中 | 不要1 | 取締役会の決議(取締役会を置かない会社は原則として取締役の過半数の一致※)14 |
| 最小行政区画まで | 定款に書かれた市区町村の外 | 必要52 | 株主総会の特別決議3+移転先・時期の決定※14 |
| 具体的な所在場所まで(例:「当会社は、本店を東京都千代田区○町一丁目1番1号に置く。」) | 移転先がどこでも | 必要52 | 株主総会の特別決議3+移転先・時期の決定※14 |
※移転先・時期の決定方法は機関設計や定款の定めによって変わり得ます。取締役会を置かない会社では、定款に別段の定めがある場合のほか、株主総会で移転先・時期まで決議する方法もあります(会社法295条1項)4。詳しくは決議はどう違うかで説明します。
なお、この「定款変更が要るか」と、登記申請でよく出てくる「管内移転/管外移転」(法務局の管轄をまたぐかどうか)は別の軸です。混同しやすいポイントなので、後半で整理します。本店移転の手続き全体の流れは本店移転の総合ガイドをご覧ください。
なぜ本店移転に定款が関係するのか
本店の所在地は、定款(会社の基本ルール)に必ず記載しなければならない事項です。会社法27条は、株式会社の定款に記載・記録しなければならない事項として「本店の所在地」を挙げています(同条3号)5。いわゆる絶対的記載事項です。
定款に必ず書いてある以上、実際の本店を定款の記載と食い違う場所へ移すことはできません。移転先が定款の記載の範囲を出るなら、まず定款を変更する必要があります。そして、定款の変更は株主総会の決議によって行うと定められています(会社法466条)2。
つまり判定の手順はシンプルで、「自社の定款の『本店の所在地』条項を開き、移転先がその記載の範囲内かを見る」だけです。
定款のどこを見るか|「本店の所在地」条項の2パターン
定款の本店条項の書き方は、大きく2つのパターンに分かれます。
パターンA: 最小行政区画(市区町村)までの記載
なお、この記事では読みやすさのため「市区町村」と書きますが、登記実務上、最小行政区画は市町村(東京都の特別区を含みます。政令指定都市では「区」ではなく「市」)と整理されています6。
「当会社は、本店を東京都千代田区に置く。」のように、市区町村までで止める書き方です。法務局の記載例でも、株主総会で変更した後の本店条項の例は「第○条 当会社は、本店を○県○市に置く。」という最小行政区画までの形で示されています7。
パターンB: 具体的な所在場所までの記載
「当会社は、本店を東京都千代田区○町一丁目1番1号に置く。」のように、番地まで書き切る書き方です。
どちらのパターンで作られているかは会社によって異なります。判定の出発点はご自身の会社の定款ですので、まず定款の該当条項をご確認ください。
定款変更が不要なケース
定款変更なしで移転できるのは、パターンA(最小行政区画までの記載)で、かつ同じ最小行政区画の中で移転する場合です。
法務局の管轄登記所内移転の記載例には、次のとおり注記されています。定款に本店の所在地として最小行政区画までを規定している場合であって、その最小行政区画内において本店を移転するときには、株主総会の決議は必要なく、取締役会の決議(取締役会設置会社でない会社にあっては、取締役の過半数の一致)により移転することになる1。
たとえば定款が「本店を東京都千代田区に置く」で、千代田区内の別のビルへ移るケースがこれにあたります。定款の記載は市区町村までなので、区内で動くかぎり定款と実際の本店は食い違いません。
ただし「何も決めずに移転できる」わけではありません。移転先の具体的な所在場所と移転の時期は、原則として取締役会の決議(取締役会を置かない会社では取締役の過半数の一致など)で決定します1。これは会社の業務執行の決定として行うもので、取締役会設置会社では取締役会が業務執行の決定を行い(会社法362条2項1号)、取締役会を置かない会社で取締役が2人以上いる場合は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役の過半数で業務を決定します(会社法348条2項)4。
定款変更が必要なケース
記載例の注記が示す条件は「最小行政区画までの規定」と「その区画内での移転」の両方を満たすことです1。どちらかを満たさない移転では、定款変更が必要になります。
ケース1: 定款に書かれた市区町村の外へ移転する場合
定款が「本店を東京都千代田区に置く」で、横浜市へ移転するケースです。移転先が定款の記載の範囲外なので、本店条項を変更する株主総会の決議が必要です52。
ケース2: 定款に具体的な所在場所まで書かれている場合(パターンB)
定款に番地まで記載されていると、その場所から移転すれば移転先がどこであっても定款の記載と実際の本店が一致しなくなります。同じ市区町村内の移転であっても、本店条項の変更が必要です52。
いずれのケースでも、定款変更の決議に加えて、移転先の具体的な所在場所と移転時期の決定(原則として取締役会の決議、取締役会を置かない会社では取締役の過半数の一致など)も行います14。
決議はどう違うか|株主総会の特別決議と取締役会の決議
定款変更に必要なのは、株主総会の特別決議です。 定款変更の株主総会決議は、会社法309条2項(11号)の特別決議にあたります。原則として、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上にあたる多数で行わなければなりません3。通常の決議(普通決議)より重い要件です。
一方、移転先・移転時期の具体的な決定は、原則として、取締役会設置会社では取締役会の決議、取締役会を置かない会社では定款に別段の定めがある場合を除き取締役の過半数の一致で行います14。定款変更が不要なケースでは、こちらの決定だけで移転を進めることになります1。なお、取締役会を置かない会社の株主総会は会社に関する一切の事項を決議できるため(会社法295条1項)、株主総会で移転先・時期まで決議する方法もあります4。どの機関で何を決めたかによって、登記申請に添付する議事録・決定書が変わります。
決議をしたら議事録が必要です。株主総会議事録・取締役会議事録・取締役決定書の書き方と署名・押印のルールは、本店移転の議事録・決定書の書き方で詳しく解説しています。
なお、移転後は登記も忘れずに。本店の所在場所は登記事項なので、変更が生じたときは2週間以内に変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)8。
目的変更との対比|「必ず定款変更が要る」変更もある
本店移転は「定款の書き方次第で定款変更が要らないことがある」手続きですが、対照的なのが事業目的の変更です。目的も本店の所在地と同じく定款の絶対的記載事項なので(会社法27条1号)5、目的を変えることはそれ自体が定款の変更にあたり、株主総会の決議が必ず必要になります2。詳しくは事業目的の変更手続きをご覧ください。
「管内/管外」とは別の軸|混同しやすいポイント
本店移転の解説でよく出てくる「管内移転/管外移転」は、移転によって法務局の管轄をまたぐかどうかという登記申請手続き上の区別です。定款変更の要否とは判定の軸が異なります。
- 定款変更の要否: 定款の「本店の所在地」の記載と移転先の関係で決まる(この記事のテーマ)
- 管内/管外: 移転前後の本店を管轄する登記所が同じか違うかで決まる(申請書の通数や登録免許税に関わる)
実際、法務局は管轄登記所内移転と管轄登記所外移転で別々の申請書記載例を用意していますが、どちらの記載例でも株主総会議事録は無条件の添付書類ではありません。管轄登記所外移転の記載例でも、株主総会議事録には「定款変更をする場合に必要です」と注記されています7。つまり、管轄をまたぐかどうかと定款変更が要るかどうかは、それぞれ別に判定するものです。
| 定款変更が不要 | 定款変更が必要 | |
|---|---|---|
| 管内移転(管轄が同じ) | 取締役会の決議(取締役会を置かない会社では原則として取締役の過半数の一致)14 | 株主総会の特別決議3+移転の決定14 |
| 管外移転(管轄が変わる) | 決議の考え方は同じ7 | 決議の考え方は同じ7 |
※移転の決定方法が機関設計・定款の定めによって変わり得る点は、冒頭の判定表の注のとおりです。また、定款の記載内容と管轄区域の組み合わせによっては、実際にはほとんど生じない組み合わせもあります。
申請書の通数・登録免許税・申請の流れといった手続き面の違いは、管轄内の本店移転と管轄外の本店移転でそれぞれ解説しています。
FAQ|よくある質問
Q. 定款変更をしたら、定款そのものを法務局に登記する必要がありますか?
A. 定款そのものを登記する手続きはありません。登記されるのは会社法911条3項に列挙された事項で、本店については「本店及び支店の所在場所」です9。申請は本店移転の変更登記として行い、法務局の記載例の添付書類一覧にも定款は挙げられていません17。定款変更の決議内容は、添付する株主総会議事録で示します7。
Q. 定款変更が不要なら、何も決議せずに移転してよいですか?
A. 定款変更(株主総会の決議)が不要な場合でも、移転先の具体的な所在場所と移転時期の決定は必要です。原則として、取締役会設置会社では取締役会の決議、取締役会を置かない会社では定款に別段の定めがある場合を除き取締役の過半数の一致で決定します(株主総会で決議する方法もあります)14。
Q. 議事録のひな形はどこで手に入りますか?
A. 法務局の申請書記載例に、株主総会議事録・取締役会議事録・取締役の過半数の一致を証する書面の例が含まれており、無料で公開されています17。書き方のポイントは本店移転の議事録・決定書の書き方にまとめています。
要否が判定できたら、書類の作成へ
定款変更の要否が分かれば、作る書類も決まります。あとは議事録・株主リスト・登記申請書を、日付や本店の表記が食い違わないように整えていく作業です。賃貸オフィスへ移転する場合の契約面の注意点は賃貸オフィスへの本店移転も参考にしてください。
wiz法人登記は、フォームに入力した内容をそのまま反映して、本店移転に必要な株主総会議事録・株主リスト・取締役会議事録(または取締役決定書)・登記申請書をご自身で作成できるオンラインソフトウェアです(4,500円・税別)。個別の法的判断や申請の代理は行わず、作成した書類はご自身で確認のうえ法務局に申請いただきます。なお、登録免許税などの実費は別途必要です。
参照法令・出典(確認日: 2026-07-19)
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。定款の解釈や決議の要否を含む個別のケースについては、司法書士または管轄の法務局にご相談ください。記載内容は確認日(2026-07-19)時点の法令・公表情報に基づきます。
Footnotes
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法務局 株式会社本店移転登記申請書(管轄登記所内で移転する場合)記載例 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001364566.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17
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会社法466条(定款の変更・e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
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会社法309条2項11号(株主総会の決議・e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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会社法362条2項1号・348条2項・295条1項(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11
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会社法27条1号・3号(定款の記載又は記録事項・e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
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参考書籍: 松井信憲『商業登記ハンドブック 第5版』(商事法務)「本店の所在地」の項(定款に記載すべき本店の所在地は最小行政区画である市町村(東京都の特別区を含み、政令指定都市にあっては市)により表示すれば足りる)。本文の「登記実務上」の記述は同書に基づきます ↩
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法務局 株式会社本店移転登記申請書(管轄登記所外に移転する場合)記載例 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252661.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
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会社法915条1項(変更の登記・e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
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会社法911条3項3号(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 ↩
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。 個別のケースについては、管轄の法務局または司法書士にご確認ください。 記事内の法令・税額等は、記事末尾に記載の確認日時点の情報です。