結論から。就任承諾書は、選任された本人が「その就任を承諾します」と会社に宛てて出す書面です。法務局の記載例では、宛名が「○○商事株式会社 御中」、差出人が本人の住所・氏名という形になっています12。会社が本人に書かせるための社内様式ではなく、本人から会社への意思表示という向きの書面です。
そして、この書面は作らなくてよい場合があります。被選任者が席上で就任を承諾し、その旨の記載及び被選任者の住所の記載が議事録にある場合には、申請書に別途就任承諾書を添付することを要しません1。住所の記載が条件に入っている点が見落とされやすいところです。また、省略できるのは書面そのものであって、会社類型や就任する資格に応じて必要になる印鑑証明書・本人確認証明書が連動して消えるわけではありません1。ここが最も間違えやすいところです。
この記事は株式会社の一般的なケースを対象にしています。監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社は対象外です。
| 論点 | 法務局の記載例に書かれていること |
|---|---|
| 誰が誰に出す書面か | 本人が住所・氏名を記載し、会社宛て(「御中」)に出す1 |
| 何を書くか | 決議の日付と機関/就任する役職/承諾する旨/作成日/住所・氏名・押印/会社の宛名1 |
| 別紙を省略できるか | 席上で承諾し、その旨の記載と被選任者の住所の記載が議事録にあれば別途添付を要しない1(記載例1-7では「重任でない場合には、被選任者の住所の記載も要する」と括弧書きで示されている2) |
| 省略するときの申請書 | 「就任承諾書は、株主総会議事録の記載を援用する。」と記載する2 |
| 省略しても添付するもの | 会社類型と就任する資格に応じて、印鑑証明書または本人確認証明書は省略の対象外1 |
就任承諾書とは|選任の決議だけでは登記できない理由
役員は、株主総会の決議によって選任します(会社法329条1項)3。しかし、選任の決議があっただけでは登記の申請書は整いません。商業登記法54条1項が、添付しなければならない書面として「就任を承諾したことを証する書面」を挙げているためです4。
選任は会社側の行為、承諾は本人側の行為です。この2つが揃ったことを申請書の上で示す書面が、就任承諾書ということになります。だからこそ、記載例の書面は本人から会社へ宛てた形をとっています。
役員変更登記そのものの様式選択・必要書類の全体像・費用は役員変更登記のやり方にまとめてあります。この記事は、そのうち就任承諾書という1枚の書面に絞っています。
就任承諾書の書き方|記載例の6項目
法務局の記載例1-10「株式会社役員変更登記申請書(辞任等により新たな役員(取締役)が就任した場合)」には、「就任承諾書の例」として次の書面が載っています1。記載例1-7(役員の全員が重任する場合)にも、ほぼ同じ書面が載っています2。
就任承諾書
私は、令和○年○月○日開催の貴社株主総会において、貴社の取締役に
選任されたので、その就任を承諾します。
令和○年○月○日
○県○市○町○丁目○番○号
○○○○ ㊞
○○商事株式会社 御中
要素は6つです。上から順に見ていきます。
1. 決議の日付と機関
冒頭は「令和○年○月○日開催の貴社株主総会において」です1。いつの、どの機関の決議で選ばれたのかを特定する部分にあたります。取締役の選任は株主総会の決議によりますから3、取締役の就任承諾書ではここが株主総会になります。代表取締役の選定を取締役会で行った場合は、記載例1-7が取締役会議事録を添付書類として挙げています2。
2. 就任する役職
「貴社の取締役に選任されたので」の部分です1。役職名を書く欄にあたります。記載例1-10には「代表取締役についても同様に作成します」という注があり1、記載例1-7には「代表取締役、監査役についても同様に作成します」という注があります2。取締役分と代表取締役分は、それぞれ別の資格についての承諾ですから、それぞれ作成する形になります。
3. 承諾する旨
「その就任を承諾します。」1。商業登記法54条1項が求めているのは「就任を承諾したことを証する書面」ですから4、この一文が書面の中心です。
4. 作成日
本文の下に「令和○年○月○日」の欄が独立して設けられています1。1の決議の日付とは別の欄です。記載例では、決議を特定する日付と、書面を作成した日付を、それぞれ書く形になっています。
5. 住所・氏名・押印
署名欄は「○県○市○町○丁目○番○号」「○○○○ ㊞」の形です1。氏名だけでなく住所も書きます。住所が書かれることには理由があり、商業登記規則61条7項は、就任を承諾したことを証する書面に記載した取締役等の氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている証明書の添付を求めています5。書面の住所と証明書の住所が突き合わされる仕組みになっています。
押印の印鑑については次の節で扱います。
6. 宛名は会社に「御中」
末尾は「○○商事株式会社 御中」です1。本人が会社に差し出す書面という向きが、この宛名に表れています。
押印|市町村に登録した印鑑が求められる場合
記載例が押印欄の印鑑の種類を明示しているのは、次の場合です。
- 取締役会を設置していない会社において、新たに就任する取締役については、就任承諾書に、市町村に登録した印鑑を押し、当該印鑑について市町村長が作成した印鑑証明書を添付する必要がある1
- 取締役会設置会社において、代表取締役が新たに就任する場合にも、同様とされている12
法務局の「取締役・代表取締役の就任の登記の添付書面」一覧でも、取締役の就任承諾書と代表取締役の就任承諾書は別々の行として整理され、それぞれの就任承諾書に係る印鑑証明書がさらに別の行になっています6。同じ「就任承諾書の印鑑証明書」でも、誰の分なのかで要否の欄が分かれるということです。
記載例が印鑑の種類を指定しているのは、いずれも「取締役会を設置しているかどうか」と「就任する資格が取締役か代表取締役か」の組み合わせによって書き分けられています12。法務局の添付書面一覧も、取締役分と代表取締役分を別の行に分けて整理しています6。記載例が種類を指定していない場合の取扱いは記載例だけでは読み取れないため、管轄の法務局へ確認してください。
なお、この記事は新たに就任する場合を前提にしています。同じ人が任期満了と同時に再び就任する重任では、就任承諾書に押した印鑑の印鑑証明書(商業登記規則61条4項・5項)と、氏名及び住所についての本人確認証明書(同条7項)が、それぞれの条項の「再任を除く。」の括弧書きによって添付書類から外れます5。その理屈は重任とはで扱っています。
作らなくてよい場合|議事録の記載を援用する
被選任者が席上で就任を承諾し、その旨の記載及び被選任者の住所の記載が議事録にある場合には、申請書に別途就任承諾書を添付することを要しません1。記載例1-7は同じ条件を「その旨の記載(重任でない場合には、被選任者の住所の記載も要する。)が議事録にある場合」という括弧書きの形で示しています2。住所の記載が要る理由は後述します。記載例1-10の株主総会議事録にも「なお、被選任者は、その就任を承諾した。」の一文が入っており、記載例1-7の株主総会議事録には「なお、被選任者は、いずれも席上その就任を承諾した。」の一文が入っています12。
申請書に書く文言
省略する場合、申請書の添付書類欄には次のとおり記載します。
記載例1-7では、代表取締役の選定を取締役会で行った場合の取締役会議事録の注として、後者の文言が示されています2。
株主総会議事録で援用するときは住所の記載も要る
記載例1-10の注は、株主総会の席上で被選任者が就任を承諾し、その旨の記載及び被選任者の住所の記載が議事録にある場合に、別途の添付を要しないとしています1。記載例1-7も、重任でない場合には被選任者の住所の記載も要するとしています2。
議事録に氏名しか書いていないと、この前提が満たされません。援用を選ぶなら、議事録を作る段階で住所まで書いておく必要があります。別紙の就任承諾書に住所欄があるのと同じ理由です(商業登記規則61条7項)5。
援用しても消えないもの|印鑑証明書・本人確認証明書
記載例1-10の注は、就任承諾書の添付を省略する場合においても、次の書面が必要だとしています1。
| 会社類型 | 対象者 | 必要な書面 |
|---|---|---|
| 取締役会を設置していない会社 | 新たに就任する取締役 | 市町村長が作成した印鑑証明書1 |
| 取締役会設置会社 | 新たに就任する代表取締役 | 市町村長が作成した印鑑証明書1 |
| 取締役会設置会社 | 他の新たに就任する取締役 | 住民票記載事項証明書等の本人確認証明書1 |
つまり「就任承諾書を省略できる」とは、就任承諾書そのものを別紙で添付しなくてよいという意味です。上の表のとおり、会社類型と就任する資格に応じて必要になる印鑑証明書や本人確認証明書まで省略できるという意味ではありません。
本人確認証明書について、記載例1-10は、新たに就任する取締役について市町村長が作成した印鑑証明書を添付しないときに、住民票記載事項証明書、運転免許証のコピー等を添付すると案内しています1。記載例1-7は、市町村長が作成した印鑑証明書を添付する役員については、本人確認証明書に代えて当該印鑑証明書の添付で足りるとしています2。この2つの証明書がどの条項で要否が決まるかは、重任とはで商業登記規則61条4項・7項の括弧書きとあわせて整理しています。
援用するときに議事録側へ実印が要るケース
もう1つ、記載例1-10の株主総会議事録に付された注に、見落としやすい記載があります。取締役会を設置していない会社において、新たに就任する取締役の就任承諾書について株主総会議事録の記載をもって援用する場合は、議事録に市町村に登録した印鑑を押す必要があります1。
別紙の就任承諾書を作る場合、市町村登録印を押すのはその就任承諾書でした1。援用に切り替えると、承諾の意思表示が議事録の中に移りますから、押す先も議事録に移る形になります。援用にすると押印の手間まで減ると考えていると、ここで食い違いが出ます。
援用と別紙作成のどちらを選ぶかは、この押印の所在まで含めて比べることになります。記載例はどちらの形も示していて、優劣は示していません12。
よくある質問
Q. 就任承諾書の日付は、決議の日と同じでよいですか。
A. 記載例では、承諾の対象となる決議の日(本文中の「令和○年○月○日開催の貴社株主総会において」)と、書面の作成日(署名欄の上の「令和○年○月○日」)が、別々の欄として設けられています1。同じ日にするかどうかについて記載例に指定はないため、実際の承諾の日と登記すべき事項の「原因年月日」との関係が気になる場合は、管轄の法務局の登記相談で確認してください。
Q. 就任承諾書は会社が用意してもよいですか。
A. 記載例の書面は「私は…その就任を承諾します。」という本人の文章で、差出人が本人の住所・氏名、宛名が会社という形式です1。記載例の形式では、承諾の意思表示と署名・押印を就任する本人が行う形になっています。
Q. 記載例そのものはどこで見られますか。
A. 法務局のウェブサイト「商業・法人登記の申請書様式」に掲載されています7。この記事で参照しているのは記載例1-10(辞任等により新たな役員(取締役)が就任した場合)1と記載例1-7(取締役会設置会社・役員の全員が重任)2です。
Q. 代表取締役の分も別に必要ですか。
A. 記載例1-10には「代表取締役についても同様に作成します」1、記載例1-7には「代表取締役、監査役についても同様に作成します」2という注があります。法務局の添付書面一覧でも、取締役の就任承諾書と代表取締役の就任承諾書は別の行として整理されています6。
Q. 就任承諾書が揃ってから登記するまでの期限はありますか。
A. 会社法915条1項は、登記事項に変更が生じたときは二週間以内に変更の登記をしなければならないとしています(登記をする場所は本店の所在地です)8。起算については変更登記の期限を、登記をすることを怠ったときの過料(会社法976条1号)9については変更登記の過料をご覧ください。
書類作成サービスについて
wiz法人登記は現在、株式会社の本店移転・目的変更の書類作成(4,500円・税別)に対応しており、就任承諾書を含む役員変更登記の書類作成には対応していません。就任承諾書については、この記事で紹介した法務局の記載例12と申請書様式のページ7をご利用いただき、ご自身で作成いただくことになります。本店移転や目的変更もあわせて必要な方は、その分の書類作成(株主総会議事録・株主リスト・登記申請書)にご利用いただけます。個別の法的判断や申請の代理は行わず、作成した書類はご自身で確認のうえ法務局に申請いただきます。登録免許税などの実費は別途必要です。
参照法令・出典(確認日: 2026-08-08)
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。株式会社の一般的なケースを対象としており、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社については、役員の選任や添付書面の取扱いが本記事の説明と異なります。個別のケースについては、司法書士または管轄の法務局にご相談ください。記載内容は確認日(2026-08-08)時点の法令・公表情報に基づきます。
Footnotes
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法務局 記載例1-10「株式会社役員変更登記申請書(辞任等により新たな役員(取締役)が就任した場合)」(就任承諾書の例・注1〜3/株主総会議事録の注) https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252657.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19 ↩20 ↩21 ↩22 ↩23 ↩24 ↩25 ↩26 ↩27 ↩28 ↩29 ↩30 ↩31 ↩32 ↩33 ↩34
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法務局 記載例1-7「株式会社役員変更登記申請書(取締役会設置会社・役員の全員が重任)」(就任承諾書の例・注1注2/株主総会議事録の注/取締役会議事録の注2) https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001298394.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19
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会社法329条1項(役員及び会計監査人の選任・株主総会の決議によって選任する)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_329 ↩ ↩2
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商業登記法54条1項(取締役等の変更の登記・就任を承諾したことを証する書面)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000125#Mp-At_54 ↩ ↩2
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商業登記規則61条4項・5項(就任を承諾したことを証する書面に押印した印鑑の証明書。取締役の就任(再任を除く。))・7項(就任を承諾したことを証する書面に記載した氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている証明書。再任を除く。)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/339M50000010023#Mp-At_61 ↩ ↩2 ↩3
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法務局「取締役・代表取締役の就任の登記の添付書面」(様式1-28) https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001188275.pdf ↩ ↩2 ↩3
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法務局「商業・法人登記の申請書様式」(第1 株式会社/2 役員変更) https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html ↩ ↩2
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会社法915条1項(変更の登記・二週間以内)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_915 ↩
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会社法976条1号(過料に処すべき行為・この法律の規定による登記をすることを怠ったとき)(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-At_976 ↩
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的助言ではありません。 個別のケースについては、管轄の法務局または司法書士にご確認ください。 記事内の法令・税額等は、記事末尾に記載の確認日時点の情報です。